歯並びに滑舌は関係する?~言語トレーニングについて~

衛生士の井上です。歯列不正の原因に、口の周りの筋肉や舌の使い方が影響すること
は、普段から診療の中でお話をしています。たとえば、嚥下時に舌が突出することで、
開咬や前突が起きてしまったり、咬みしめによる過蓋咬合や、口輪筋の緊張が強すぎ
て歯列が倒れ込んでくるケースなどはよく診る症例です。また、おしゃべりをしている
と、舌がよく見える話し方をしているお子さんを見かけることがあります。
今回は、そんな発音時の舌の使い方について、スポットをあててみました。

【『ことば』を発するための体の機能とは】 ♢発声のメカニズム♢

声を出すには、以下の様なメカニズムで体が機能しています。

<発声>

    1.息を吸うと、肺がふくらみ空気を溜め込みます。膨らんだ肺が収縮する事により息が送り出されます。
         
    2.送り出された息が声帯を通過すると振動して、音になります。
         

<共鳴>

    3.声帯の振動音が体内にある空洞部分で反響して大きな音になります。主な共鳴腔は、咽頭腔、口腔、鼻腔です。
    ここで、共鳴腔の形を変化させ音に特徴を付ける事が出来ます。
    (例えば、声の高さや低さ、大きさや小ささなど)
         


<構音>

    4.共鳴腔で大きくなった音に、口や舌の形を加える事により言葉が形成されます。

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♢構音器官(『ことば』を作り出す場所)とは?♢

日本語の場合は、子音と母音が合わさって作られます。
子音は「k・g・s・z・t・d・b・p・m・n」など 舌、唇、歯、下顎、鼻、軟口蓋を使います。》
母音は「A・I・U・E・O」 声道:咽喉、口の形を変える事により、母音が作られます。》

【どのような状態が問題なのか?】♢ 構音障害の種類♢♢

『ことば』の発音に関係する構音障害には3つのタイプがあります。

    1.機能性構音障害…医学的には問題が無く、ある特定の音だけをあやまって発音してしまう場合。
         
    2.器質性構音障害…器質的に口や鼻、喉に何かしらの原因があり、正しく発音できない場合。
         
    3.運動性構音障害…脳の損傷などで、発音に関係する神経や運動機能に影響が出ている場合。
         

上記の中でも、①の機能性構音障害は、普段診療の中でよく見かけるタイプです。
1.は、発育途上の幼児にも見られ、医学的に問題がなければ成長と共に直る場合もあります。
しかしどこかの発達段階で留まってしまい発音に影響が出ている場合には、
『ことば』のトレーニングが必要になります。

発音の発達

発音の発達には、順序性があります。
一般的に、「パ」「マ」など目で見て確認しやすく、動きがダイナミックな発音は早い時期に習得されます。
反対に「サ」「ラ」「ズ」などの発音は、子供の90%が正しく発音できるようになるのは5歳前後になってからです。

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発音に問題があるかどうかの最初の見極めは
5歳前後になってから、習得できている音の種類に
よって判断していきます。
また、気にはなっていたけれど、
なんとなく指導を受ける事がないまま成長し、
入学や就職にあたって初めてトレーニングを受けた
という方もいらっしゃる様です。
気になっている場合は、一度専門機関を
相談されると良いでしょう。

誤り音の種類

誤って構音された音の聞こえ方は、次の様なパターンがあります。

<省略> 語尾の音素が省略されて母音部分になっているもの。 でんわdenwa→えんわenwa/dの省略
<置換> ある音が他の音に置き換わっているもの。 さかなsakana→たかなtakana/sのtへの置換
<歪み> 日本語の語音として表記できない音に歪んでいるもの。特異な構音操作の誤り。

どのような発音の仕方になるのか?(誤って発音された音の聞こえ方)

[口蓋化構音] 舌の先を上顎の歯茎のあたりに付ける発音。「サ」「タ」「ダ」など
      ⇒舌背が口蓋につき舌尖は下に落ちる。「ヒャ」「シャ」「カ」「ガ」に近い音に聞こえる。
[側音化構音] 口の開きを狭くして、空気を舌の中央部から出して作られる。「シ」「チ」など
    「イ」段の音⇒頬と舌の隙間に空気の流れを作って発音する。「ヒ」「キ」に近い音に聞こえる。 
[鼻咽腔構音] 舌が口蓋に接して口腔を閉鎖し、鼻腔で音を作る。「ン」「クン」に聞こえる。
[声門破裂音] 声帯を強く接する事で声門を閉鎖し、それを解放させて作る破裂音。
       咳払いのように聞こえる。
[咽頭破裂音] 舌根と咽頭後壁の破裂音。咳払いのような音に聞こえる。
[咽頭摩擦音] 舌根や仮声帯を咽頭後壁が狭まって作られる摩擦音。
       咳払いのような音に聞こえる。

【トレーニング方法】♢具体的なトレーニングの流れ♢

    1.[基本操作](MFT/舌のトレーニング)
         
    2.[音の獲得]「たてと」口蓋化音や「いちし」側音化音の舌の作り方の練習
         
    3.[ことばの中の音に移行] 「たまご・たいこ・さくら」などの練習
         
    4.[日常会話へ] 舌の使い方を意識しながらフリートーキング
         

 滑舌が悪いということは、これらの構音器官のどこかに何らかの問題があり、うまく発音できない状態です。
むし歯や鼻づまり扁桃腺などに問題があり発音しにくい場合は、積極的に他診療科への受診も必要です。
ことばを作り出す器官の中でも特に重要な場所は、『舌』です。その舌がうまく使えない原因として、
かまずに食べる、うまく飲み込めないなど食べる事が上手にできない場合も多く見られます。

口は、本来食べるためにある器官です。
飲み込む時に口唇や舌の運動がうまく行っていないと歯列不正の原因となります。
そしてその歯列不正により、構音器官に影響し発音障害を起こします。
また、その状態が続く事で更に歯列不正が悪化する事も考えられます。
矯正歯科から見た言語訓練は、歯並びを直すということを目的に行っています。
歯並びが治る事で、機能が向上し言語トレーニング効果があがる場合もあります。
発音時の正しい舌の使い方は、歯列を考えた上でも必要なトレーニングと言えるでしょう。

矯正治療の中でのMFT(筋機能訓練)は、音の獲得だけではなく、嚥下や態癖、姿勢など
日常的な生活動作全般に対するトレーニングが必要になります。
そのため、言語トレーニングのみに特化せず、全体的なバランスを見ながら言語トレーニングを組み込んでいます。
構音障害の状態によっては、言語聴覚士の先生やことばの教室などで、専門的なトレーニングをおすすめする場合もあります。

参考文献

『口唇口蓋列治療の会/長野・山梨』
『ネットで学ぶ発音教室』『STになろう』
『昭和大学歯科病院・おくちでたべる.com』
『れみぼいす・ボイストレーニング』など…