更年期に矯正治療ってできますか?
女性ホルモン低下の影響について。

こんにちは!技工士の勝田です。2児の母として仕事と家庭の両立を頑張っていますが、昔ほど無理ができなくなったな~と最近感じるようになってきました。近年患者さんのお母さんが矯正治療を始めるケースが増えてきていますが、更年期女性の矯正治療を行う際に注意しなければいけない事として、女性ホルモンの低下の影響があります。私自身はまだしばらく先の話ですが、患者さんで注意しなければいけない方が増えてきたので特集にしてみました。

女性ホルモンとは?

女性ホルモンとは、卵巣で作られるホルモンのことです。生理や妊娠・出産など、女性特有の現象に関係しており、女性の心身の健康にも大きな影響を与えるホルモンです。このホルモンにはエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類があります。

また、女性は人生においていくつかの節目の時期を経験します。10代の思春期を迎えてから、多くの方は結婚・妊娠・出産を経験し、そして40代から55歳ごろにかけて更年期を迎えます。このような節目の時期にも女性ホルモンが深く関わり、心身に影響を及ぼします。

女性ホルモンが口腔組織に及ぼす影響

女性ホルモンの分泌の変化は口腔内にも影響を及ぼします。プロゲステロンは歯肉にある血管に作用して炎症反応を増大させます。つまりプロゲステロンの量が増えると歯肉の知覚が敏感になり、わずかな刺激に対しても大きく反応するようになります。これにより少量の歯垢でも著しい反応を示し、歯肉が赤く腫れて出血したり、人によっては痛みを生じる場合もあります。また、これにより歯周病にかかりやすい状態にもなります。ホルモンバランスと歯周病の関係性について、代表的なものとして妊娠期と更年期における歯周病との関係性を説明します。

妊娠期

妊娠によってエストロゲンとプロゲステロンの分泌が増えます。そのためごく少量の歯垢や歯石にも過敏に反応するのが特徴で、独特な歯肉の発赤、膨張と出血が見られます。そして妊娠12週目から13週目にかけて歯肉の細菌叢(口の中に生息する細菌)が大きく変化します。とくにプレボテーラ・インテルメディアという細菌は妊娠初期から5倍にも増加します。この菌は歯周病原菌の一つで、増加量が女性ホルモンの濃度の上昇と関係していることから、この菌は歯肉溝内(歯と歯肉の堺)に出てくる女性ホルモンを栄養として増殖しているものと考えられています。
妊娠前に口腔内の清潔が保たれている場合にはこのような症状が起きることはありませんが、不潔にしていたり、歯周病に罹っていた場合には妊娠を機に悪化する恐れがあります。予防のためにも妊娠前から歯科医院へ定期的に通院しましょう。

更年期

更年期に伴いエストロゲンが減少していきます。エストロゲンは骨の生成を促し、骨の破壊を抑制するホルモンなので、エストロゲンの減少は全身の骨密度の低下(骨粗鬆症)を促します。あごの骨の骨密度も低下し、歯を支えている歯槽骨も弱くなります。また、エストロゲンの低下は唾液の分泌にも影響が出ます。唾液の分泌が著しく減少し口腔乾燥症(ドライマウス)を訴える女性も多くおり、これらの症状が歯周病リスクを高める原因になります。他にも、更年期には、歯肉が痛む・灼熱感を持つ・味覚の異常が起きるなど、さまざまな症状も起こります。歯科医院での適切な清掃と家庭での丁寧なケアが特に大切です。

更年期に矯正治療を希望される方へ

歯と歯周が健康であれば何歳でも矯正治療は可能です。ですが、更年期は前述したように骨の代謝が悪くなる時期なので、歯周病リスクと口腔衛生に注意し、骨の生成が間に合うようにゆっくりと動かす必要があるため、治療期間は長くなりがちです。さらに、唾液分泌の低下のため装置と口腔粘膜のスレが生じやすく、口内炎が頻発しやすくなります。
注意していただきたいのは、骨粗鬆症の診断を受けている方です。骨粗鬆症の方にはあまり矯正治療はお勧めできません。歯周病リスクが高くなるだけでなく、骨吸収抑制薬(ビスホスホネート製剤)を服用している場合、抜歯を伴う矯正治療は顎骨壊死という重篤な副作用を引き起こす可能性があります。

女性ホルモンを安定させるためには

①バランスのよい食生活

体内のホルモン分泌を正常に保つためには、バランスのよい食事が欠かせません。
ホルモンの原料となるタンパク質は、毎日適量を摂取することが大切です。また、大豆に含まれるイソフラボンはエストロゲンによく似ていて、疑似エストロゲンのような働きをするとも言われています。エストロゲンが減少しやすい排卵後や生理中、更年期などは積極的に豆腐、納豆、味噌などでイソフラボンを摂取してみましょう。
女性は生理などの関係で貧血の人が少なくありません。貧血になると、体内のさまざまな器官へ酸素や栄養が行き届かなくなり、女性ホルモンの分泌量も減ってしまう可能性があります。鉄分を多く含む、レバーや牡蠣、しじみなどの食品を積極的に取り入れてみてください。場合によっては医師の診断のもと、鉄剤などで補う事もできます。また、食事のタイミングについても1日3回、決まった時間にとるのがよいとされています。

②睡眠の質を向上させる

睡眠の質が落ちると女性ホルモンの分泌に影響がでます。逆に女性ホルモンのバランスの乱れが不眠につながることもあります。女性ホルモンは卵巣から分泌されているのですが、分泌の指令を出しているのは脳の‟視聴下部”です。視聴下部は睡眠不足やストレスによって機能が低下し、女性ホルモンの分泌も引きずられるように乱れてしまいます。バランス良い食事をとることと共に、睡眠にも気をつけてみましょう。

良い目覚めは良い睡眠から
《知っているようで知らない睡眠のこと》

厚生労働省 ホームページより