食育について

今号は、食育について特集します。最近よく聞かれる、食育とはいったい何なのでしょうか。
簡単に言うと、『自分の健康のために、食べ物とどうやって付き合って行けば良いのか、考えていきましょう』ということです。
矯正治療においても、『歯の健康のために食べ物とどうやって付き合っていけばよいのか』という食育は、大事なポイントの一つとなっています。
食欲の秋!おいしく、そして楽しく食べたいですね。最近の食事情とからめて、歯科の立場からお勧めしたい食育についてご紹介したいと思います。

口腔内は、食べ物が一番最初に通過する体の器官です。例えば不正咬合により食べ物が咬みにくい、舌癖がありうまく飲み込めない、また、偏咀嚼や姿勢の悪い食べ方から顎位が安定しないなど、食事と歯並びの関連をあげることができます。歯並びは、先天的なものや骨格的な問題から起こる場合も多いですが、舌癖や態癖などの後天的な要因も見逃すことはできません。バランスよく口元の筋肉を使って食べることや咀嚼する回数が増えることで咀嚼機能が発達し、舌や顎の運動機能、口腔の容積や顎の筋肉、味覚などが発達します。唾液の分泌量も増えることから、虫歯になりにくい口腔内ともつながっていきます。あまり咀嚼しない柔らかい食べ物ばかり食べていては、咀嚼機能の低下も招きます。口腔内の自浄作用も低下し、汚れが付着しやすい状態にもなります。また、矯正が始まってからもブラケットが入った口の中で、甘いお菓子やジュースばかり飲んでいては、虫歯の原因となります。そういったものばかり食べることは、口腔内のみならず全身の健康へも良い影響を及ぼさないのは想像に難くありません。

 平成12年に食生活の指針、平成16年に食育基本法が制定されました。それによると、食育とは、国民一人ひとりが生涯を通じた健全な食生活の実現、食文化の継承、健康の確保が図れるよう、自らの食について考える習慣や食に関する様々な知識と食を選択する判断力を楽しく身につけるための学習の取り組みを指します。また、食育を考える上では、経済や世相も大きく影響しているようです。日本では戦後、経済成長を含む社会情勢が大きく変化してきました。畜産物や油脂などのカロリー摂取量が昭和50年ごろにほぼ満足すべき状態となり、バランスの良い食事体系が達成されてきました。そのままで維持することが出来れば日本人の食生活は理想的でしたが、その後脂質の消費が増加したことに加え、米の消費量が減少したことによりバランスが崩れ始めました。また、今まで成人病と呼ばれていた心臓病、脳卒中、ガンなどを生活習慣病という呼び名に変えるほど、食生活習慣の乱れは深刻な事態ともなっているのです。健康に楽しく生きていくためには、食生活の改善が重要です。

最近では、ニュースで食に関連する話題を目にすることも多くなってきました。
この中に、皆さんに思い当たる部分はありませんでしたか?

では、実際にどのようなことを行えば良いのでしょうか。農林水産省では、以下のような指針を発表しています。

1、食事を楽しみましょう。
2、一日の食事のリズムから、健やかな生活リズムを送りましょう。
3、ごはんなどの穀類をしっかりとりましょう。
4、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを考えましょう。
  (食事バランスガイドを活用してみましょう)
5、野菜・果物、牛乳・乳製品、豆類、魚なども組み合わせましょう。
6、食塩や脂肪は控えめにしましょう。
7、適正体重を知り、日々の活動に見合った食事量をとりましょう。(BMI値を計りましょう)
8、食文化や地域の産物を活かし、ときには新しい料理も取り入れましょう。(地消地産)
9、調理や保存を上手にして無駄や廃棄物を少なくしましょう。
10、自分の食生活を見直してみましょう。

人それぞれどこを重視するかは変わってくると思います。3食きちんと摂れている方は、食事の内容をもう一度検討してみても良いでしょう。食事バランスガイドはHPからダウンロードすることができます。少し面倒ですが、普段の食生活を記入したり、BMI値も計算することができるため、見直すきっかけにすることができます。朝食が摂れていない、夕食が遅い、甘い物が多いなど、必要性は感じているけれど全部を実行するのは難しいと思われた方は、まず食事のリズムを整えてみることから始めてみてはどうでしょうか。

最後に食育という言葉の由来についてお話します。

食育とは、ここ最近の社会情勢により生まれてきたように感じますが、実は明治時代の2冊の書籍の中で既に使われています。明治31年(1898年)初版発行/石塚左玄著『通俗食物養生法』に「食能(よ)く人を健にし弱にし、食能(よ)く人の心を軟化して質素静粛に勤勉し、食能(よ)く人の心を軟化して華美喧騒に断行するに至る。」とあり、食が人に及ぼす影響が大きいことを強調しています。また、明治36年(1903年)初版発行/村井玄齋著『食道楽』では、登場人物の会話の中で「知育と体育と徳育の三つはタンパク質と脂肪とデンプンのように程や加減をはかって配合しなければならん。智育よりも体育よりも一番大切な食事の事を研究しないのはうかつの至りだ。」とあり、智育より体育より食育が大事だと述べています。このように食育について考えていくことは、古くから必要とされていました。皆さんも、この機会に食料や食生活について家族で考えてみてはいかがでしょうか。