歯並びに影響する耳鼻科疾患と治療

衛生士 赤田

いつも鼻呼吸の大切さや機能訓練を積極的に行うように患者さんや保護者の方に説明していますが、近年は花粉症などの慢性の耳鼻科疾患を持っている方が多く、耳鼻科との連携治療の必要性を常々感じています。今回は耳鼻科治療の必要性を知ってもらいたくて、歯並びに影響する耳鼻科疾患と治療について特集しました。

衛生士 赤田

口呼吸と顔の成長変化

歯並びが悪くなる原因はいろいろありますが、大きな原因の一つに「正しく呼吸が出来ない:口呼吸」があります。いつも口を開いている口呼吸の人は呼吸のために舌は下がり、口唇と舌による歯列や咬合を保持する力のバランスも崩れて、歯並びが悪くなってしまいます。そして口呼吸は、耳鼻科疾患(上気道障害、慢性鼻閉)が大いに関係しています。

成長期の慢性的耳鼻科疾患による口呼吸は、長期になることで、顎骨や頬骨の成長に影響を及ぼします。下記は双子の姉妹の成長前後の写真です。口呼吸をしていたか、いないかで口元に影響がみられます。

小児の上気道障害や鼻閉の慢性化は、顔貌への影響(アデノイド顔貌)以外に、中耳炎、難聴、副鼻腔炎、鼻炎、いびき、ひどい場合は、小児の睡眠時無呼吸症候群となり、学習障害(集中力や落ち着きの低下)、低身長などの成長発育の遅れ、夜尿、胸郭の変形、心疾患など様々な合併症を引き起こします。

そのようなひどい上気道障害がある場合は、投薬治療ではなく手術が適応となる場合があります。大人の方でも、耳鼻科疾患がある場合は、治療の効率化や後戻りの防止のため、矯正治療と共に耳鼻科での加療をおすすめします。

<胸郭の変形“漏斗胸、陥没呼吸”>

<アデノイド顔貌の矯正治療前後>
アデノイド顔貌:口呼吸の影響による中顔面(特に頰や鼻部分)の発育不良

矯正治療による顎の拡大や成長誘導は気道の拡大をもたらし、呼吸抵抗を減らすので、鼻呼吸がしやすくなり顎顔面の成長発育に好影響を与えます。

耳鼻科の病気

耳鼻科で扱う疾病で慢性的に口呼吸を生ずる疾患はどんなものがあるでしょうか?
以下に列挙してみます。

咽頭 :①アデノイド肥大、②扁桃肥大
鼻 :③アレルギー性鼻炎、慢性鼻炎、肥厚性鼻炎、鼻中隔湾曲、副鼻腔炎(ちくのう症)
その他 :睡眠時無呼吸症候群、加齢による咽頭のたるみ、舌沈下、肥満など

咽 頭 :①アデノイド肥大

①アデノイド:リンパ組織の一つで、扁桃腺ともにのどの奥にあり、体の免疫に関係しています。大きかったり、炎症が起こると、鼻づまり、口呼吸( アデノイド顔貌の原因)、いびき(睡眠時無呼吸症候群)慢性副鼻腔炎、滲出性中耳炎(難聴)を起こします。

4~6歳が働きが活発で大きさもピークになり、10歳を過ぎると小さくなります。アデノイドが大きすぎて症状が生じている場合、薬をつけてもなかなか小さくならないので、切除手術が必要になる場合があります。成長と共に小さくなるので、症状が軽い場合は、通院治療しながら、お薬で様子を見てもらいしょう。

【治療法】 薬物治療 :主に炎症を抑える薬の服用や、点鼻薬が主になります。

◎手術の適応 ◎手術の問題点
・4歳以上(3歳までは経過観察)
・耳管閉塞がありひどい中耳炎を繰り返す場合
・小児の睡眠時無呼吸症候群
・痛み
・出血
・入院が必要(1週間~10日)

手術は難しいものではなく、手術後に障害が出ることもありません。副鼻腔炎や滲出性中耳炎を併発し
ている場合、アデノイドを取った上で、それらの疾患を治療していく必要があります。

②扁桃肥大

のどの奥の両側にあるリンパ腺で免疫に関与し口蓋扁桃は4~5歳で生理的に肥大し、7~8歳で最大となり、12~13歳で縮小していきます。扁桃肥大のために空気の通り道が狭くなると、いびきや、睡眠時無呼吸症候群の原因になります。また、のどは食事の通り道でもあるので、扁桃肥大により、食事に時間がかかったり、くちゃくちゃ食べになったり、 食物が飲み込みにくいため、顎をずらして飲み込む癖や舌で歯を押す癖がついて、反対咬合の原因になることがあります。

【治療法】 薬物治療 :扁桃腺は抗生物質による治療が有効で、炎症を抑える治療が主になります。

◎手術の適応
・急性扁桃炎で3~4回/年熱を出す
・IgA腎症
・嚥下障害
・睡眠時無呼吸症候群、いびき
・Ⅱ度~Ⅲ度は手術対象
◎手術の問題点
・痛み ・出血 ・入院が必要(1週間~10日)

鼻:③アレルギー性鼻炎、慢性鼻炎、肥厚性鼻炎、⑤鼻中隔湾曲、⑥副鼻腔炎

③アレルギー性鼻炎

花粉やハウスダストなどのアレルゲンを吸い込むことで作り出される、化学伝達物質(ロイコトリエン)によっ
て、鼻の粘膜が過敏になり、慢性炎症を起こし腫れあがったり、鼻の通りが悪くなり、くしゃみ・鼻みず・鼻づま
りなどの3大症状が起きます。

アレルギー性鼻炎は、日本人の4割が発症しており有病率は増加傾向にあるそうです
(通年性アレルギー性鼻炎23.4%、スギ花粉症26.5%2008年度調査)その他にも、眼のかゆみ、眠気、睡眠不足、嗅覚障害など、生活の質(QOL)を低下させることもある慢性疾患です。

④肥厚性鼻炎:鼻腔粘膜が腫れ肥厚して鼻が詰まる

【治療法】
薬物治療・・薬(点鼻薬、内服薬など)ステロイド剤、血管収縮剤があるが、後者は慢性的使用でさらに腫れがおこる。通院治療でネブライザーや薬剤が主になるが、通院治療で症状が繰り返し起こるような場合は、手術も適応になります。

外科的治療法・・
⑴鼻粘膜切除:レーザー治療(効果約1~2年)
⑵後鼻神経切断術:中学生以上が適応。
アレルギ-性鼻炎や血管運動性鼻炎で薬が効きにくい難治性の水様性鼻漏に効果的です。下鼻甲介に分布する神経を切断する方法で、鼻症状の改善率は8~9割以上で、鼻汁の分泌を抑える効果が持続します。

減感作療法・・アレルギーの原因がわかれば、その抗原のエキスを定期的に皮下注射や舌下に滴下し、少しずつ増量しながらアレルギーの過剰反応が起きやすくなっている体質を正常な状態へと改善する、根本的な治療法と言えます。治療期間が長期(2年前後)かかる欠点があります。

⑤鼻中隔湾曲

鼻中隔は鼻腔を左右に分け、外鼻(鼻の形態)を維持しています。鼻中隔湾曲症は成人の約80~90%にみられ、無症状のこともあります。鼻閉などの症状を伴ったり、慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎に伴う肥厚性鼻炎を増悪させたりする場合、治療の対象になります。

頭の大きさは14歳まで成長し、鼻中隔は18歳まで伸びるので、手術は、16から18歳以降が適応年齢になります。手術は、鼻中隔軟骨や骨の曲がっている部分を切除します。症状によって肥厚性鼻炎を伴う場合は、合わせて肥厚した粘膜も合わせて切除することがあります。

⑥副鼻腔炎(ちくのう症)

副鼻腔は鼻の奥の 4対(計8つ)の空洞です。副鼻腔炎は内部の粘膜(繊毛で覆われている)が何らかの原因(細菌、ウイルス)で炎症を起こしている状態のことです。突然発症し、短期間で治る急性副鼻腔炎と、3か月以上症状が続く慢性副鼻腔炎に分けられます。

副鼻腔炎の症状は黄色や変色した鼻汁や鼻閉、後鼻漏(鼻汁が喉の奥に流れる)による咳や痰、副鼻腔に膿が充満することによる頭痛や頭重感、顔面の痛みや圧迫感、嗅覚障害、発熱などですが、鼻をよくかみ鼻水と一緒に膿を出すことで症状が改善するので、鼻のかめない乳幼児や子供は吸引が必要です。アレルギー性鼻炎や肥厚性鼻炎で、鼻が詰まっていると膿が出にくいため、重症化しやすいです。

重症の場合は中耳炎や、まれではありますが炎症が目や脳に及び、視力障害や髄膜炎などを起こす場合があります。風邪をきっかけに副鼻腔炎を起こしやすいので、免疫を高めて、普段から手洗いうがいを心がけましょう。

また、鼻づまりを起こしたときに、市販の点鼻薬(スプレー式など)を使うと、一時的に症状が改善されますが、使い続けていると、薬の効き目が薄れたときにかえって鼻づまりを強く感じたり、症状を悪化させてしまうこともありますので、長引く症状の時は耳鼻科に受診しましょう。

スイミングと耳鼻科疾患

あまり知られていませんが、プールの塩素は、目の充血を起こすように、鼻の粘膜をただれさせます。そのため鼻や耳の病状を悪化させることがあります。中耳炎、副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎にかかりやすい方はスイミングのプラス面とマイナス面を十分勘案しましょう。

子供は、自分から鼻や耳の不調を訴えにくいので、お父さん、お母さんが病気に対して正しい知識を身につけていただくことが、お子さんの病気の早期発見、より早い病気の治癒、再発防止につながります。

また、長期の服薬や点鼻薬だけで、改善の見込みがない場合、耳鼻科へ行かなくなってしまう方がいらっしゃいますが、お薬を変えてもらったり、症状があるときは病院で診てもらいましょう。また、自宅でできる予防や薬の効きを良くする方法として、鼻うがいも実践してみてください。

耳鼻科の先生の考え方によっても選択する治療法は様々です。特にアデノイドや扁桃線を含めた外科的手術に対する姿勢は開業医と病院とで大きく異なります。また、矯正医と耳鼻科医の考え方にも差がありますので、当医院でも必要に応じて専門の先生に紹介させていただくことがあります。

矯正の資料は、横顔や正面のレントゲンを撮るので、目で見えない耳鼻科の疾患を診ることができます。当院でも成長に影響を与えるような小児の睡眠時無呼吸症候群を早期発見し手術になった例もあります正しい呼吸は、健康や成長に大きく影響します。矯正を機に、健やかな呼吸も手に入れてください。

口呼吸が習慣化している場合は、耳鼻科で治療をしても、自然には鼻呼吸を獲得しづらいので、機能訓練(鼻呼吸)も並行して行いましょう。