「一浩と栄里子のあたしんち」 
第90回 「矯正歯科診療の意義」

日本臨床矯正歯科医会の学術大会に参加するため仙台に行ってきました。今回のテーマは「矯正歯科が社会と共生するために」です。 中でも、赤司征大先生の講演に感銘を受けましたので報告します。赤司 は歯科医師でありながらUCLAに留学し、MBAを取得。現在は歯科業界情報サイト“WHITE CROSS”の代表を務めています。

講演ではこれからの日本は高齢化がさらに進み、それに伴い厚生労働省は「健康寿命の延伸・健康格差の縮小」を掲げ、「従来の治療を中心とした歯科医療から口腔機能管理型歯科医院へのシフト」を推奨しているとのことでした。当院で行っている、予防や機能訓練を重視した矯正歯科診療は、まさに「口腔機能管理型」と言えると改めて確信しました。

講演の中で「あなたにとって、口腔ケアはどのような意味合いがありますか?」の問いに対し、74.6%の方が「健康維持」と答えています。矯正歯科で歯並びを治すことは、若い世代にとっては美容・印象・審美を目的としているかもしれませんが、高齢になるにつれて「健康維持」や「医療費削減」にシフトしていくと話していました。

つまり矯正歯科治療で健康な歯並びを獲得することの真価が発揮されるのは60歳以降の健康寿命においてであるということです。一方で、矯正歯科治療は一部の症例を除き保険適応外で、誰もが等しく受けられる医療ではないという現実もあります。その結果、①健康意識が高く予防に投資する層と②生活困窮や通院困難で口腔状態が悪化する層に、緩やかに分化してきているというお話もありました。

当院には①の「予防に投資」する方が多く来院されます。この方達の中でも小児から20代ぐらいまでの方は、歯並びが悪くてもむし歯の無い方が多いのですが、40代以降の方は歯を喪失していたり、治療歯が多数ある方が多いです。さらに、80歳で20本以上歯を残していている8020達成者の中には、反対咬合や開咬などの不正咬合者はいないという調査結果もあります。つまりは、歯並びが悪いと加齢とともに歯の喪失原因となるので、高齢になっても健康で良く噛めるお口であるためには、矯正治療を受けた方が良いということです。

先日4年ぶりに55歳で矯正治療を始めた治療後の患者さんが検診でいらっしゃいました。ご家族の介護でしばらく検診に来れなかったそうですが、本人は健康で「何でも良く噛める」と嬉しそうにおっしゃっていました。矯正治療後20年近く経っても検診で綺麗な歯並びを見せにきていただけるのは、矯正歯科医としての冥利に尽きます。

今回の講演を通じて私たちの行う矯正歯科診療の意義を改めて認識しました。“成長期は不正咬合やう蝕の予防”“成人期には美容・審美、エチケットへの投資”“高齢期には健康寿命の延伸へ”と矯正治療の意味合いは、患者さんの人生のステージによって変化します。そのことを常に意識しながらこれからも診療にあたっていきたいと思います。

院長 福増一浩