ブラックトライアングルについて
歯のすきまについて、歯肉の形態と審美の面からお話をしたいと思います。最近は成人の矯正患者さんが増えてきました。そして QOL(クオリティ− オブライフ)の向上で、皆さまの要望も矯正だけではなくホワイトニングや、アンチエイジングなど審美性への興味も高まっています。
若々しく素敵な笑顔でいるためには、歯だけではなくリップラインや歯肉との調和も大切です。皆さん はブラックトライアングルという言葉を聞いたことがありますか?ブラックトライアングル とは歯のすきまのことです。歯肉が下がり、歯間が開くと黒い三角形に見えるので、ブラックトライアングルと呼ばれています。下の2枚の写真を見比べてみて下さい。どちらが、健康的で若々しく見えますか?
ブラックトライアングルは、どうして起こるのでしょうか?
上の図を見てください。歯と歯の間には、歯間乳頭という歯肉の部分があります。歯間乳頭には、歯間乳 頭繊維(歯と歯の間をつなぐ水平の繊維)があり、歯を支える大切な働きをしています。いろいろな原因がありますが、ブラッシングの不良により歯周炎になってしまうと、歯間乳頭部に炎症が起こり、毛細血管が拡張し細菌の毒素を薄めるため、滲出液が血管の外に出てきて、歯間乳頭が腫れてきます。この状態が長く続くと歯間乳頭の組織や歯を支えている歯槽骨の一部が、破壊されてしまいます。その結果、歯槽骨が吸収した分だけ歯間乳頭は退縮してしまうのです。
矯正治療でブラックトライアングルが出来ることがあると聞いたことが在りますが・・・
矯正治療中デコボコが改善されたときに、一時的にブラックトライアングルが出現することがあります。この現象の多くは歯茎が減った(歯肉退縮)というより、デコボコの歯ならびの時には歯肉も重なって隙間が見えにくかったものが、矯正治療によって歯が整列され歯根の間が広がるため、実際は治療前と歯と歯茎の位置(骨や歯肉の高さ)に 違いはなくとも、歯茎の隙間として現われるものです。歯周病により引き起こされる歯肉退縮とは異なりますので歯の健康上の問題はありません。少し時間がかかりますが、歯肉は立ち上がってきます。 しかし、それ以外の理由で出来てしまうものもあります。それは歯が生えたときにすでに、骨がない場合です。歯肉の下には歯槽骨が在りますが、歯とあごの歯槽骨のバランスが悪かったり、歯の生える位置異常が あるともともと骨が在りません。そのため歯肉が下がり歯の根がはみ出した状態になってしまうことがあり ます。こちらは防ぐのは難しいです。
このような場合では、治療開始前の矯正資料から、治療後にブラックトライアングルの出現が予測できますので、 治療に先立ってその可能性をお話します。
どんな人に起こりやすいですか?
20 歳以下の患者さんでは、このようなことはほとんどおこりませんが、成人では加齢的 に歯をとり巻く骨や歯肉(歯 周組織)の細胞の活性が下が るため高齢になるほど起こりやすくなります。また、歯肉 の薄い人は厚い人に比べると、歯肉が痩せやすく退縮しやすいので出来やすいといえます。歯の形によってもなりやすさが異なります。
ブラックトライアングルが発生したらどんな治療法がありますか?
歯間形態を修復する
1.レジン充填(下の写真を参照)
歯は一切削らず、歯にレジンを盛って形態修正を行い、隙間を目立たなくします。
2.ラミネートベニア
歯の表面を一層削り、セラミック製のシェル(薄片)を張り付けて隙間を目立たなくします。
3.セラミッククラウン
歯の6割ぐらいを削り、被せもので隙間を埋めます。
4.IPR矯正
ストリッピングやディスキングとも呼びます。歯の側面の部分(エナメル質を0.5mm程度)を少し削り、形態修正を行い、隙間を閉じることで埋めます。
※ エナメル質の範囲であれば、歯質が弱くなったり、削った歯がしみて痛い、ということはありません。
いくつか治療法がありますが、上の1~3は人工物を貼付けるため、貼付けた部分の清掃性が悪くなることがあります。無理な歯間形態を作ることで、プラークの停滞を生じさせたり、ブラッシングが困難になることもあります。そのため、歯肉退縮を悪化させてしまうこともあります。4は歯槽骨からコンタクト(歯と歯の接触点)の距離を短くすることで、歯肉の再生を促す効果もあります。矯正が終了して歯の位置が安定すると、再び歯茎がせり上がってきて、歯を支えようとし始めます。ただこれには時間がかかり、だいたい数ヶ月から数年を要するようです。また、歯周病等で歯茎が弱っている場合は歯周治療を行わないと治らない場合もあります。
歯肉を回復させる(一般歯科でご相談ください)
・部分的な歯肉退縮の場合、外科的に歯肉を再生療法で治療したり、歯肉を移植する方法があります。
・歯石の除去など歯周病治療と家庭での口腔衛生管理を指導します。
矯正治療でブラックトライアングルが消失します!
上の写真は当院で矯正治療中の経過写真です。先ほど紹介した、歯間形態を修復する④のIPR法を行いました。
ブラックトライアングルと歯周の状態が改善されてきていることがわかります。
矯正治療により機能改善、審美面や清掃性の改善も期待できます!!
ラックトライアングルをつくらないようにするにはどうすれば良いですか?
予防するには毎日のプラークコントロールが大切です。つまり歯周病にしないことです。通常のブラッシング に加え、補助的にフロッシング(糸磨き)やワンタフト、歯間ブラシを取り入れると清掃効果も高くなります。 間違ったブラッシングも気をつけなくてはいけません。硬すぎる歯ブラシで力いっぱい磨いたりすると、歯肉 を退縮させてしまうので注意しましょう。歯科衛生士は皆さまの歯並びにあった、歯磨き方法を見つけるお手 伝いをしています。お気軽にご相談ください。歯周病の疑いがある場合には歯科医院で診察を受けましょう。
鶴見歯科大学の調べでは、10 年前は 50 歳以上の矯正患者さんは、ほとんどいなかったそうです。しかし 現在では、50 歳以上の患者さんが、成人矯正の 10%を占めるようになってきたそうです。高齢の患者さ んは、代謝の低下など多くの制約があるので、矯正治療は難しいと考えられていましたが、現在では歯槽 骨の代謝の低下はあるものの歯牙移動に適応することが解ってきました。つまり、歯周組織(歯の回りの 骨や歯肉)が健康に保たれていれば、矯正治療はいくつになっても出来ることが解ってきたのです。当院 でも今までに 50 歳以上の患者さんは 10 名。40 歳台では 19 名の方が実際に治療を行っています。そして 診断だけ受ける方はもっとたくさんいらっしゃいます。最近ではお子さまの矯正治療でみえたお母さまが、 いろいろな情報を得て、御自身の治療を始めるケースも増えてきています。年だからとあきらめていらっ しゃる中高年の皆さま、一度相談してみてはいかがですか。私たちがいつまでも、若々しく綺麗な口元で いられる様にお手伝いいたします。