矯正治療で手術をすることがあるって本当ですか??

はじめに(顎変形症とは…)顔面の骨格が、完ぺきにバランスがとれてると言う人はほとんどいません。若干のズレというのは、だれしもが持っています。ましてや矯正治療を受けようという方のほとんどは、少なからず骨格のズレを伴っています。患者さんが成長期(身長が伸びている時期)であれば骨格のズレがあっても、矯正治療で成長を利用して改善することが可能です。しかし、成長期を過ぎてしまうと骨格的なズレが大きい場合、歯ならびの矯正治療だけでは咬み合わせの改善が難しい場合があります。そのような場合に骨格のズレを改善するため、外科矯正が適応となります。

手術をするには矯正治療を必要です

矯正治療をしないで手術だけを行なっても、歯は咬み合いません。また手術前の矯正治療だけでは個々の歯を良い位置に動かしきれないので、手術後にも矯正治療は必要です。このような治療は美容整形的な事として解釈されがちですが、骨格および咬合の異常による咀嚼障害を治すことに治療の意味があります。

【治療前模型】
上アゴにも下アゴにも凸凹が多く、前歯の噛み合わせは反対になっています。

手術だけでは!? 矯正してからの手術では??
【模型上で下顎を交代】 【同一患者の治療後模型】
歯が噛み合いません!美容整形ではこの後、歯を削って冠を被せたり、前歯などは全体的に削ってさし歯(偽物の歯)にして噛み合わせを作ります。健全な歯は、削ってしまうと寿命が短くなってしまいます。その場は良いかもしれませんが、将来的には!? 手術を行う前に矯正治療で歯を動かしているので、骨をより理想的な位置に手術で動かすことが出来ます。もちろん健全な歯を削ったり、被せたりする必要はありません。

通常の矯正治療にかかる期間とほとんど変わりません。抜歯治療や非抜歯治療、人によって歯の移動量や動きやすさなど個人差があるので一概には言えませんが、1年半~2年半位が目安だと思って下さい。そして、治療期間中に手術のための入院期間が必要になります。

費用について

通常の矯正治療は自費診療となり、保険では出来ません。しかし、先天性疾患である唇顎口蓋裂と顎変形症による外科矯正(手術を伴う矯正治療)の場合には認定医療機関でのみ、矯正治療を保険で行なうことが出来ます。数年前までは大学病院などの入院設備を持つ、ごく限られた医療機関でしか保険診療は認められていませんでした。しかし平成9年より矯正専門医院など外科矯正の実績のある医院には、認定制で保険診療を行なうことが出来るようになりました。

福増矯正歯科も平成10年に認可を受けています。矯正治療にかかる費用ですが、保険診療のため個人差があり、治療内容によってことなります。一概には言えませんが、窓口負担2割(社会保険本人)の場合¥100,000~¥200,000位が個人負担分の大体の目安だと思います。そしてこのほかに、手術費用が別途かかります。

手術について

手術には色々な方法があり、手術方法、入院期間、費用等などは個人差があり各病院によって異なります。以下は平均的な事例について書いてありますので詳しくは各病院の担当医におたずね下さい。また、手術は口の中から行われるので、顔に傷が残るようなことはありません。

代表的な手術方法

下顎枝矢状分割術(かがくししじょうぶんかつじゅつ) 上下顎同時移動術(じょうかがくどうじいどうじゅつ) 前方歯槽部骨切り術(ぜんぽうしそうぶほねきりじゅつ)
下顎骨を縦にスライスカットして前後左右にずらしてミニプレートで固定します。 骨格のズレが大きい場合、上下顎を手術で移動し、ミニプレートで固定します。 手術中に抜歯をして、その隙間を使って、前歯の傾きの角度を変えたり、前歯を後退させます。

ミニプレートについて

手術後の骨接合はチタン製のスクリューやミニプレートなどを使用します。チタンは生体親和性が良好でアレルギーは無いと言われていますが、骨分割部が治癒すれば身体の中に置いておく必要はありません。そのため手術後6~12ヶ月後に除去することを勧めています。その際に追加の手術(オトガイ形成術・顎角の修正術・舌の修正術)などを合わせて行なう場合には、1~2週間程度の入院が必要です。プレートの除去手術のみの場合は、部位によっても変わりますが、外来手術室で局所麻酔で除去できるような場合には、日帰り手術が可能です。

治療前準備

診断後、手術方針が決まったら手術をする病院の口腔外科に検査を受けに行っていただきます。検査項目は病院によって変わりますが、血液検査や心電図など、手術を受けるのに問題がないかどうか、検査を行ないます。その後、特に問題がなければ矯正治療を開始し、手術に向けて歯ならびを整えていきます。再度口腔外科に受診するのは手術前矯正のめどがある程度たってから、手術の予約と検査などのために行ってもらいます。

手術による合併症

いかなる手術にも不測の事態は起こりえます。もちろんそのようなことが無いように、細心の注意をもって手術は行われますが、時には次のような問題が生じる場合もあります。術中の大きな問題としては出血があります。 術後の合併症としては、神経障害(下唇やオトガイ部の知覚の異常)が生じることがあります。また、傷口からの細菌感染もまれにあります。もちろんそれぞれに対しての予防策は下記のように行われます。

輸血について

通常、輸血が必ずしも必要ではないのですが、他家血輸血は感染症などの問題もあり、出来るだけ行なわないほうが望ましいので、不測の事態に備えて自己血輸血を行ないます。自己血輸血には貯血式自己血輸血と希釈式自己血輸血(輸液)があります。通常は希釈式で行いますが、貧血がひどい等の場合には貯血式を用います。貯血式の場合、入院の2~3週間ぐらい前から2~3回にわけて400mlづつ採血し、冷蔵又は冷凍保存します。またそのさいに造血剤等を投与することもあります。

自己血輸血の種類 利点 欠点
術前貯血式自己輸血(冷蔵保存・冷凍保存) 多量の血液を確保できる。 術前の来院回数が多くなる。造血剤が必要なときがある。
希釈式自己輸血(輸液)(血液の代りに生理的食塩水等の輸液を行なう) 術中の操作のみで対応できる。免疫系細胞が保存される。 多量の出血に対応するには限界がある。

手術後について

*血腫や腫張の防止のため創部(傷口)にドレーンや持続吸引チューブを2~3日留置します。 *感染防止や痛み止め、炎症の抑制のための投薬とイソジンガーグル液などによる頻繁なうがいを行ないます。 *退院は術後に問題がなければ1~2週間で退院になります。 *顎間固定は手術の内容にもよりますが一般的に2~6週間おこないます。その間は口が開けられないので、食事は噛まずに食べられるもの(流動食など)になります。 術後6週間以上経過して骨の治癒状態を調べてから常食への移行や開口練習を行なっていきます。 *術後のオトガイ神経麻痺に対しては数ヶ月で回復してくるので経過観察としていますが、患者さんによっては薬物療法などを行ないます。

手術後について

手術内容や手術前後の管理・処置内容、入院設備や日数、医療機関、保険の種類や年度毎に保険点数も改定されるので一概には言えませんが、大体の目安を書いておきます。

(例):社会保険本人(2割負担)で患者が窓口で支払う金額です。室料差額分などは含んでいません

平成11年度の保険点数で作成しています

手術名 内容 入院期間 窓口負担額
SSRO(下顎枝矢状分割術) 下顎のみの形態修正手術です 2週間 150,000円
Le Fort ・+SSRO(上下顎骨同時移動術) 片顎だけ(下顎または上顎)では修正できないほど骨格のズレが大きい場合に、上下顎の手術をします。 3週間 250,000円
スクリューおよびプレート除去 顎矯正手術で骨接合に使ったプレートなどを取り除く手術です。オトガイ形成術・顎角の修正術など、他の手術と合せて行う場合もあります。 日帰り~2週間 100,000円

下記の手術は単独では矯正治療の保険適応にはなりませんが、上記の手術と合わせて行なうことで、治療期間の短縮や顔貌の改善などに効果があります。

手術名 内容 入院期間 窓口負担額
コルチコトミー(骨皮質骨切り術) 骨に割線を入れ、歯の移動量が大きい場合に歯を動きやすくして治療期間を短縮します。 2日間 20,000円
Genio Plasty(オトガイ形成術) 顎矯正手術後の顔貌の調和をとるため行ないます。美容整形ではシリコンなどの人工物を埋入しますが、顎矯正手術では自分自身のオトガイ部の骨をスライドさせて修正します。人工物の埋入操作は簡単で手術侵襲も少ないのですが、生体にとっては異物のため人工物と接している部分の骨は経過と共に吸収されます。また歯根に近い部分のため齲蝕や歯周病に感染すると摘出しなくてはなりません。自分自身の骨であればそのような心配は無用です。 2週間 130,000円
スクリューおよびプレート除去 顎矯正手術で骨接合に使ったプレートなどを取り除く手術です。オトガイ形成術・顎角の修正術など、他の手術と合せて行う場合もあります。 日帰り~2週間 100,000円

手術方法

コルチコトミー<骨皮質骨切り術> Genio Plasty ジェニオプラスティ<オトガイ形成術>